導師守護役であるアニス・タトリンは、目の前の失礼かつ無礼極まりない男性を見てため息を付く。
その失礼かつ無礼極まり無い男性の名前は、ジェイド・カーティス。かの有名なネクロマンサーだ。
そんなジェイドが、何故導師専用の執務室に容易に侵入してくるのか……
神託の盾の兵士がこの場所まで警備をしているはずなんだけど……と、アニスはもう一度ため息を付いた。

「と、言う訳でして……導師イオンにご同行をお願いいたしたいのです」

なにやら、ジェイドはイオンに対してそう告げる。妙に自信満々にだ……
何考えてるんだ? この眼鏡……と、導師から発言許可を貰っていない為、睨む事しかできないアニス。
普通ならば、正式な手順を踏んで導師イオンと面会しその面会にて己が旨を伝えるのが常だ。
もう一度考える……なんで神託の盾の兵士達はコイツを素通りさせたんだ……と、
導師の執務室までの通路は、他の場所と違いかなり厳重に警備されているはずなのに……
まさかこの男、兵士ら殺して来たとか抜かさないよな……? と、嫌な考えばかり浮かんでは消える。

「……ニス……アニス」
「はい。なんでしょうか? 導師イオン様」
「僕は、このジェイドの願いを聞く事にしました」

一瞬、イオンが何を言っているのか分からなかった。が、すぐ理解できたアニスは……

「駄目です」
「? 何故ですか?」
「考えてみてもください。彼はネクロマンサーと呼ばれた存在です。
それに、導師イオン様とこう言う話し合いをするならば逸れ相応の手続きがあります。
彼は、それを無視して私達の目の前に居ます。つまりそれがどう言う事かお分かりください。
次に、ネクロマンサーである彼が、和平の使者などと……冗談にも程があると思います」

キムラスカ=ランバルディアとの戦争で、キムラスカ兵士が一番恐怖した存在が彼なのですから。
と、自分の考えを全て告げるのだが……イオンは、少しだけ眉を顰めただけ。
それでも、共に行きます。と、イオンは力強く告げた。

「………わかりました。ただし、詠師トリトハイム様に、手紙を……
なんの書き残しも無いままに出てゆかれればダアトは、混乱に陥ります」

生き生きとした表情を浮かべるイオンを見て、ため息を一つ。
導師は、導師と言う存在がどういう『存在』なのか今一つ認識をしていない。
しかしながら、その原因は、イオンを取り巻く環境ゆえなのかもしれない……
アリエッタならば、きっと無理にでもイオンを止めたのだろう。

「どうしました? アニス?」

ため息を一つついたアニスを見てそう尋ねるイオン。

「……いえ、なんでもありません」

そのしばらく後で、イオンは手紙を書き終わる。
書き終えた手紙を受け取るアニスは、ジェイドを見る。

「コレを詠師トリトハイムに届け終え、私が戻ってくるまで行動を起こさないでください。
もし、私が戻ってきて貴方とイオン様が居ない場合、マルクトが誘拐したと私は発言します」

では、届けてまいります。と、アニスはその場をいったん後にした。