アニス・タトリンが、その称号を得るに至ったのは神託の盾に入団して五年が経過した頃だった。
平和そうに見える世界でも、やはり何処か彼処に争い事と言うのはある。
その何処か彼処の争いに、アニスが傭兵としてダアトから派遣された時に付いた称号。
『破壊する天使』と『スマイルデビル』

それは、生きる為に生き残る為に血眼になって敵を屠ったアニスの姿からつけられた称号。
名誉の様で不名誉な称号である。

その称号を得た由来。
それは、アニスの髪型にある。アニスはツインテールの髪型で何時も戦闘に臨んでいた。
激しい戦闘のさなか揺れるツインテールは、さながら黒い羽の様に揺れ羽ばたいた様に動く。
そして、当初のアニスは、半人前で生き残る事に精一杯だ。
それこそ血眼になって。という表現がぴったりと当てはまるぐらいに精一杯。

力の加減なぞ出来る訳も無く。再起不能になった敵を殺したし……
多かれ少なかれ戦いとは興奮するモノだ。脳内麻薬のドーパミンが大量に分泌され気づいたらアニスは笑っていた。
戦って―――潰して。
戦って―――殺して。
戦って―――笑って。
戦って―――死にたくない。
戦って―――殺されたくない。

容赦ないその姿から、破壊する天使を

愉快そうに笑う姿から、笑う悪魔を

そんな嬉しくない称号を手に入れた訳である。
偏にそんな出来事は、戦いの中で多々あるのだが……アニスのその可愛らしい容姿と髪型が
結果的にその二つの称号を得るに至ってしまった訳である。
後衛で譜術を使っていればよかったのに、と、言われてしまっても
当初のアニスは初級の陽動にもつかえるかどうかのレベルしか覚えていなかった。
もっと譜術の訓練をしておけばよかった。などと思っても傭兵派遣の方が唐突に舞い込んだ為。
やっと譜術の基本訓練を開始しようとしていた段階のアニスにそれは酷な話である。

最終的に、アニスはその戦いで生き残り。
そして、盛大に吐いた。
戦って殺した。人間を殺した。初めて人間を殺した。気持ち悪い。
人形を使って殺したとしても、何故だか人形で殺したはずなのにその感触がある様で……
盛大に吐いて、涙を流した。胃の中に何も入っていないから出るのは胃液ばかり。

アニスが、二つの称号を手に入れた十五歳の時。
それは、アニスは初めて人を殺した歳で、人を殺す事がいかに『辛いか』を知った歳であるのだった。












坊や。よくお聞き。悪い事をしたら怖い悪魔が笑いながら坊やをお食べに来るよ。