エンゲーブの到着し、まず私たちが向かった先はエンゲーブの取締役であるローズ……
では無く。エンゲーブに居た漆黒の翼を追う事になった。
無事、エンゲーブ到着の手紙を出した直後の出来事である。
なに考えてるんだ。あの名代……

結局として、漆黒の翼を捕獲する事はできず、逆に言うなら貴重な橋をぶっ壊された。である。
今度こそちゃんとエンゲーブに到着し、取締役であるローズへ挨拶へ向かった。
エンゲーブでの物資調達完了までの時間、このエンゲーブで待機となる。

ローズと話をしていると、どうやらエンゲーブでは、食料盗難事故が多発し困っているという。
犯人は容易としてしれず……食料庫が荒らされ大量ではないが、決まった量が減ってゆくとの事だ。
イオン様が、いきなり立ち上がりローズ宅を出て行こうとする。
私は、あわててそれについてゆく。何をするつもりだ導師様っ!!

イオン様が向かった先は、食料庫。
確かに食料庫は、荒らされていた。
ただ、見た印象としては人ではなく動物。それもかなり小型の動物だとわかる。
ふと、イオン様が足元に落ちていたその動物の毛を拾った。

「チーグルの毛……ですね」

ふむ。と、イオン様はその毛を手に、食料庫を出て再びローズ宅へ向かう。
何がしたいのかがわからないが……困る。

戻ったローズ宅は、なにやら喧騒という意味で騒がしかった。
どうやら、外から来た人が、食料泥棒だ! と、村人に拿捕され連れてこられたらしい。
碌な調べもせず何をやってるんだ。と、思うが……
無論、つれてこられた人は、俺じゃねぇ! と、言う。

と、言うよりも人が多すぎて見えない。
イオン様も早く入りたいようなので少々無茶をする。

「すまないけど……其処を……ドケ」

ドケ。の部分に少々殺気を混ぜる。
すると人垣はサッと割れる。あまりやりたくない方法だが、今しがた見つけたチーグルの毛により
勝手に盗人にされた人の容疑を晴らす方が先だろう。

「その人じゃありませんよ。食料庫にチーグルの毛が残ってました」

イオン様の言葉に、ほらみろ! 俺じゃねぇ! と、容疑者になっていた青年……?
青年というより少年に近い雰囲気を持つ赤い髪に緑の瞳の……
……はて? 赤い髪に緑の瞳? ……ど、どう考えても……キムラスカに連なる者だと知らしめている。
悩みの種が増えてる様な気がしてきた。
そして、その青年の隣に居るのは、ダアト所属の兵士。
確か、ユリアの子孫という事で、兵士になる為の学務試験等を免除された……
ティア・グランツ。そう、あのヴァン・グランツの妹だ。

「……失礼。導師イオン様。私に発言の許可をいただいてもよろしいですか?」

私の言葉に、いいですよ。と、イオン様は頷く。
ここで、私は一度咳を払う。

「ローズ村長。チーグルが食料を盗むのに心当たりは? 些細な事でも結構ですので」

私の言葉に、ローズ村長はん〜……と、考える。

「そういや、チーグルの森からさらに奥に行った所にある森が、つい最近火の手があがったよ」

チーグルの森から更に奥……

「では、その火災にあった森に住んでいた魔物等はわかりますか?」
「たしか………」

思い出し始めたローズは、ほんの数十秒後に慌てた様な表情を浮かべる。

「ライガだ!」
「……わかりました。つまり、何らかの要因で火災にあった森にはライガが居て。
そのライガが、もしかしたらチーグルの森および森付近に移動し、食料となるチーグルを狩ろうとしたんでしょう。
が、チーグルも知性はありますし。ライガも同じく知性を持つ魔物。
なんらかの協定が結ばれたのかもしれません。たとえば、食料の定期的な受け渡しの代わりに、チーグルを狩らないとかね」

思いっきりの憶測なのだが……もし、ライガが原因ならばと、考える。
導師守護役の先輩で現六神将の妖獣のアリエッタに要請を頼むべきだと、答えをはじき出す。
アリエッタの母親は、ライガ達の長。ライガクイーンだと、誇らしげに語ってくれたのを覚えていた為だ。
何せ、アリエッタのすぐそばには、いつもライガがいたし嘘では無いだろうとは思っていた。

「……妖獣のアリエッタに調査を依頼してもよろしいですか? 導師イオン様。マルクト名代ジェイド・カーティス殿?」

私の提案に、イオン様はうれしそうに頷き。ジェイドの野郎は、まぁ、無駄な時間は使わないに限りますしね。と、了承した。
なので、ローズには、後日妖獣のアリエッタが調査に来る事を知らせる。
ダアト所属のアリエッタが、マルクト帝国に入国すると言う事になるので、そこ等の断りを入れなければいけないのだが……
ダアト側は、導師イオン様の了承を得た事を伝え。マルクト帝国側には、兵士に頼んで入国管理を任されている人物への連絡を頼むべきだなと、完結させた。

さて、これでこのエンゲーブの食料盗難事故は、無事に解決するはずなので、問題がひとつ片付いたと、心の中でほっとする。
下手に、マルクト側から対策をだされライガクイーンが駆除されたのならば、アリエッタが次期ライガクイーンとなって直情的にマルクトを攻めかねない。
無論、マルクトを攻めるのは人じゃなくて、ライガクイーンを頂点にしたライガやその眷属の魔物達だが……

それは、おいておくとして、次の問題だ。
そう、今目の前で私を睨む様にしてみている青年。
やはりどこをどう見ても……キムラスカ=ランバルディアの王族。
王位継承者で、この青年の年頃となれば……どう考えても、王位第三継承者たるルーク・フォン・ファブレ様しか思いつかない。
むしろ、目の前の青年が、ただ髪を染めただけの青年だったならば、うれしいのだが……
どう考えても……天然の紅。

「ルーク・フォン・ファブレ様と、御見受けします……」

と、私はルーク様の前でダアト式ながらも臣下の礼をとる。
唐突の事に、ルーク様はうろたえた様子が伺える。
無論、ローズもルーク様を引っ釣れて来た村民達も慌てる様に頭を下げた。

「あ、あぁ、え、頭下げなくていい! やめてくれ!」

その言葉を持って私は、顔を上げてルーク様を見る。
はて、ルーク様の隣に居るグランツ音律士は何故、呆然と立っている?

「ティア・グランツ音律士……貴様。何故、呆然と立っている……この方が誰だかわからないのか?」

もし、わからない。とか言い出したら、トクナガで殺撃しても良いと思っている。
そもそも、なんで一介の音律士が、王族と一緒にいるのか?

「ルーク様。よろしければ、何故そのティア・グランツ音律士が、貴方様と一緒に居られるのかお尋ねしても?」

私の言葉に、ルーク様はえーっとなぁ。と、頬を掻く。




ルーク様から聞いた、内容は非常にダアトにとって拙いモノだった。
むしろ、キムラスカ=ランバルディアと戦争を起しかねない。いや、下手したら起こる。

「違うって言ってるでしょう! 私はちゃんと貴方をキム」
「黙れ………ティア・グランツ音律士……もう一度言う。黙れ。三度目は無い」

私の剣呑な声と雰囲気に、グランツはビシッと固まり口をパクパクと動かしている。

「導師イオン様」
「は、はい!」

呼びかけると何故か、驚いた様な返事をするイオン様。

「グランツ音律士をすぐに、ダアト追放を」
「え?」

そんな間抜けた声。
それは、イオン様の口から漏れた声。
ブチッと何かが切れる音がした。




「いいですか? イオン様。グランツ音律士は何処の所属兵士ですか?」
「ダ、ダアトです」
「で、そのダアトの一兵卒がですよ? キムラスカの要人。ダアトで言うイオン様やモース様の自宅に
 押し入り殺人未遂です。これが、ひとつの町で起こったならば警邏に逮捕されますね?」
「あ、はい」

「ルーク様から聞いた話ですと、グランツはファブレ公爵家に侵入。まず不法侵入。
 更に、ファブレ公爵家を守る白光騎士団やメイド達に躊躇無く眠らせた上で
 ヴァン・グランツ主席と共に居たルーク様を襲撃。暗殺未遂。
 そして、ルーク様との間に起こってしまった超振動による不法国境越え。誘拐ですね。
 ここまでいいですか?」
「ひゃ、ひゃい」
「ダアトの兵士が、キムラスカの要人の家に侵入しました! 更には、暗殺未遂も行いました!
 更に言うならば! その兵士は、戸惑いも無く! 譜術を使用し要人宅を守る者たちへ牙をむきました!
 更に更に! 要人宅の息子。言うなれば大切な後継者を誘拐し不法で国境を越えました! この結果、最悪の事態が起こるならなんですか!!!!」

もう、後半は、目の前の人物が導師とかそういうのを忘れて怒りが頂点だった。

「え、えっと……謝罪すれば」
「……本気でそう思ってますか?」
「ひゃ、ひゃい……」

……早期、社会勉強が必須。導師としてはわからないが、社交的にも国際的にも役立たず。
謝ればすべて収まると思うか……純真にして無垢。素晴らしい事だけども……
それは、時として破滅を招く。

「すみません。マルクト兵士の皆さん。其処のダアトの音律士を拘束しタルタロスの営倉にぶちこんでくれやがりますか?」

ジェイド・カーティス大佐。事後承諾になりますが宜しいですか?
と、確認しながらも、私はすでにグランツの顎に一発拳を食らわせてある。
それを見たせいなのかどうなのかはわからないが……ジェイドは、顔を少し青くして頷き。
彼女は、不法国境越えしましたしね。と、つぶやく様に言った。

ずるずると引きずられていくティア・グランツ元音律士。
それを唖然と見送るイオン様とルーク様。

「イオン様。最悪の事態とは、キムラスカ=ランバルディアとダアトが戦争する事です。
 いいですか? ルーク様は、王位継承者という立場。即ち将来国を背負い立ちうる存在です。
 その後継者に対し、ダアトはルーク様のご自宅。ファブレ公爵家に不法侵入し武力制圧し暗殺未遂を行い誘拐した。
 ダアトは、キムラスカに敵意ありと取られない訳がありません……
 イオン様。貴方は純粋で無垢で大変うらやましいです……が、無知過ぎます」

もう、導師守護役をやめる覚悟でそう告げる。

「ですから、先ほどグランツをダアト追放しダアトの総意では無く。そのグランツが勝手にやった事ですとします。
 無論謝罪もいたします。どう考えてもあんな輩を出してしまったのはダアトなのですから。
 そして、その後であのグランツを拘束しキムラスカ=ランバルディアへ渡す事で
 ティア・グランツという個人を、キムラスカ=ランバルディアで裁きを受けさすのです……
 これを行えば、戦争にはなりませんが……立場的にキムラスカ=ランバルディアに強く発言する事ができなくなります」

謝罪。確かにそれも大切。でもそれは個人個人でのやり取りなら、それですみます。
国と国では、謝罪してもその後が無ければ意味が無いのです。

イオン様は、唖然とし顔色も真っ青になっていた。




ルーク様は、賓客扱いでタルタロスに保護する事となった。
ルーク様の話し相手として、イオン様と私が同室する事になったが……
あぁ、無論寝泊りする場所は別々の部屋である。






「……僕。何で導師なんですか」
「それ言ったらよ。なんで俺。王族なんだ? って話だぜ」
「ア、アニス。すごく怖かった」
「あ、あの女。アニスって言うのか。怖かったなぁ……」






「何故! 私がこんな所にいれられなきゃいけないのよ!!」
「黙れ。小娘……磨リ潰スゾ」
「ひぅ!?」
「……様子を見に来て見れば……反省はおろか己がしてしまった罪もわからないのね?」
「わ、私が一体何をしたって」
「……救いようが無い」




「ライベーレッド軍曹。わがままを言って申し訳ないです」
「いえ……あの、アニス・タトリン導師守護役」
「なんでしょう?」
「ダアトの兵士って……あの、その」
「アレは、例外です。絶対に例外です」
「で、ですよね?」








ライベーレッド軍曹。マルクトの兵士。所属としては、フリングス。人数あわせでタルタロスへ出向扱い。