エンゲーブを出発して早三日。
流石、タルタロスと言った所だろうか? 馬車よりも早く振動もほぼ無し。
海の船よりも快適ではあるが……やはり飽きが来る物である。

「あ、あのアニス」

窓から外を眺めてアンニュイな雰囲気を醸し出すアニスに、恐る恐る声をかけるイオン。
何故か、そのイオンの後ろにはルークがこそこそと隠れる様に居る。

「なんでしょうか? イオン様」
「そ、その……僕に、世間一般の常識を教えてくれませんか?」

イオンの言葉に、アニスは眉間に少し皺を寄せるが、すぐにその皺は無くなり良いですよと答えた。

「あ、俺も教えてほしいぜ。何せ俺ずーっと屋敷から出た事なかったしな」

礼儀だ作法だ。だの煩く言ってくるヤツいんだけど常識ってヤツを教えてくれなかったし。
と、そう笑いながらに告げるルークに、イオンは何か同じものを感じたのかコクコクと頷いた。
確かに、イオンはダアトの教団施設から出ると言う事はあまり無く。
出たとしても、それは他国への訪問なのだが……アニスは、考える。
元導師守護役であるアリエッタの頃から今の自分に導師守護役が移行して今の今まで、他国への訪問なんてあったか? と、
アリエッタから、他国へ行く時の心構えやその国特有の法律等は教えてもらったが……
イオンが、他国へ訪問云々は聞いたことが無い。

アリエッタが忘れている可能性も捨てきれないが……訪問へ行った等の話を聞いた事は、無かったはずだ。
忘れているだけかもしれないが……で、現在、アニスが導師守護役となってからは……
あの常識を疑う眼鏡によって今に至るまでが、初めての他国への訪問だ。と、答えを導く。

「では、世間一般の常識をお教えいたしましょう。王族への対応と無礼に当たる行為。無礼を行った場合の処罰。
また、一般人の常識や私達兵士……私は、ダアト所属なのでダアト兵の常識になってしまいますが……」

ふと、アニスは部屋の出入り口の扉に眼をやる。
今現在この部屋には、ルークとイオン。そしてアニスの三人だけだ。
アニスが扉に視線をやるのにつられてルークとイオンは、同じように目線をやる。
そんな二人に、少々お待ちください。と、告げてからアニスは扉に歩み寄りゆっくりと扉を開ける。

「ん。ライベーレッド軍曹が、今の見張り番か?」

開けた扉の直ぐ傍に一人の男性が立っていた。その男性は、ライベーレッド軍曹。
あのティア・グランツ捕獲後の面会に辺り立会いをした男性だ。
ライベーレッドは、唐突にそう声をかけられ少々狼狽した様に、はい。と答えた。

「丁度いい。ライベーレッド軍曹。部屋の中に入ってくれ」
「は?」
「イオン様とルーク・フォン・ファブレ様に、一般常識を教える事になってな……」
「は、はぁ?」
「私は、ダアトでの常識などはわかるんだが……マルクトの常識は、殆ど知らない。手助け頼む」
「は、はぁ?! 自分がですか?!」

こうして、イオンとルークに対する一般常識の勉強や一般人の王族への態度や礼儀。兵士らの事等の
普通の一般人ならば当たり前の事をアニスとライベーレッドは教える事となるのだった。

「うげ。んじゃティアが俺に対してした事って」
「一族郎党処刑モノです。今は、マルクトへの不法入国で牢屋に入れていますが……」
「……僕、本当に何も知らなかったんですね」
「導師イオン様。人は、知らないからこそ知ろうと思うのです」

常識を知ったルークとイオン。今後の二人は、きっと良い方向へ成長していくだろう。


『敵襲!! 襲撃者複数!! ダアト兵士武装をしているが、詳細不明!!』

そんな叫びに近い放送が、タルタロス全体に響き渡った。


「………」
「ア、アニス?」
「か、顔色悪いぞ? アニス」
「だ、大丈夫ですか? 導師守護役」


「何処のバカだああああああああああああああ!!!?」

人の目を気にせずそう叫んでしまったアニスに、罪は無いだろう。















一難さってまた百難。