『全クルーに通達! 第一種戦闘配置! 敵のタルタロス侵入を阻止せよ!』  叫びに近い声が、タルタロス内部に響き渡る。 『此方、ジェイド・カーティスです。敵影を確認した所六神将が数名襲撃に加わっている模様。  それゆえ、オールウェポンフリーです。譜術士は後衛で確実な援護。前衛は無理に前に出ようとせず防衛に徹してください』  導師イオンとルークを、部屋の比較的扉から遠く守りやすい部屋の隅へと移動させながら。  アニスは、あのどうしようもない名代の指示に、少々評価を改めた。  駄目な名代から戦闘に関してはまともな名代と。  今、部屋の中には、ライベーレッド軍曹と襲撃の知らせを受けて真っ先にこの部屋の防護を任せられたマクルト兵数名。  そして、アニスとイオンにルークと言う面々である。 「導師イオン様。まことに申し訳ないのですが……一時、傍を離れる事を許可していただけないでしょうか?」  落ち着いた口調でアニスは、そうイオンに告げる。イオンは、驚いた表情を浮かべた。  それもそのはず、常識を知らないとは言え今の状況がどんな状況なのか、イオンだって分かる。  だが、それでもアニスは、そう言った後、真剣な瞳でイオンを見ていた。 「わかりました……許可します。ただし、無茶はしないでください」 「了解です」  イオンの了承を得て、アニスは部屋で唯一廊下へ繋がる扉へと向かう。  扉の取っ手に手をかける前に、首だけ振り向かせ防護に当たっているマルクト兵数名とライベーレッドに一声。 「イオン様を頼みます」  その言葉に、マルクト兵数名とライベーレッドは力強く頷いた。 「私が出たら直ぐに、ロックお願いします」  そういうや否や、アニスは、部屋の扉を思いっきり開けると同時に、  トクナガを巨大化させ奥に行く様だったダアト兵数名をまとめて殴りのめす。  どうやら、ダアトの兵士達は、各グループに分かれてタルタロス内部で戦闘行動をしているらしく。  アニスが殴りのめした数名のほかに、近くに人影は無かった。  開いた扉を無造作に閉め、ロックの掛かる音を確認した後で、アニスは艦橋に向かって走り出した。  艦橋に行くまでに目に付いたダアト兵士は、全てトクナガで殴り飛ばしながらの進攻であった。  死霊使いと呼ばれた男。ジェイド・カーティスは苦戦を強いられていた。  艦橋に出ると同時に六神将が黒獅子のラルゴと対峙する事となったからだ。  それに、ラルゴの周囲には武装したダアト兵士。  ダアト兵に関しては、マルクト兵が対応している為。一対一と言う状況ではあるのだが……  艦橋に出たタイミングで、放たれた封印術のせいで、得意とする譜術の大半を封じられたのに加えて。  封印術の束縛するような重圧に、同じく得意とする槍術を冴えない状況。  なんとか、今は均衡を保って入るが、ほかに六神将が助力に現れたのならば、  均衡は崩れて今まで、少しだけの内部侵入を一挙に許してしまう状況だった。 「状況は、悪化の一方ですか……他の場所は何とか持ちこたえているようですが……」  槍を下段に構えラルゴを見据えながら、一人そう呟くジェイド。 「戦いの最中に考え事とは随分と余裕があるな! 死霊使い!!」  ラルゴの大鎌が、容赦なくジェイドに振り下ろされる。  それをバックステップで回避し槍を下段から上段へ突き上げる様にして前進するが、それは難なく回避されてしまう。 「封印術を受けてもそんなに動けるとは……驚愕だ」 「死霊使いを舐めて貰ってはこまりますね」 「ふん。そんな強がりがいつま」 『ブラッディ・ハウリング!』  第一譜術で高威力を持つ譜術が、ジェイドの後方から放たれる。  ジェイドに集中していたラルゴが、回避しようとして気がついた時には、既に遅く。  ラルゴは、下から突き上げられるその強烈な一撃に吹き飛んで床に叩きつけられた。  それにラルゴは短く低い声で唸った後、気絶してしまった。 「無事ですか。名代」 「これはこれは……」 「無駄話をしている時間はありませんので……」  と、ブラッディ・ハウリングを放った張本人。アニスは、そう告げるとさっさとラルゴの方へと歩き進む。 「六神将ラルゴを確保した! ダアト所属の兵士に告ぐ!! 戦闘行為を中止せよ!! 中止しない場合  黒獅子のラルゴの命は無いものと思え!!!!」  あらん限りの大声でそう告げると、ダアト兵士達の動きはピタリと止まった。  その隙をマルクト兵士らが見逃すはずも無く、直ぐに動きの止まったダアト兵士達は武装を解除させられ捕縛される。 「名代。タルタロス内部へも連絡を」 「わかりました」  やれやれ。と、ジェイドは近くにあった艦内放送用拡張機で、アニスが言った事と同じ内容の事柄を放送する。  その放送を聴きつけ、すぐさま他の六神将とダアト兵士らが艦橋に上がってくる。 「アニス・タトリンかっ!」  と、アニスを見てそう言い放ったのは、六神将が魔弾のリグレット。  そんなリグレットを見据えてアニスは、冷静に言い放つ。 「今すぐ戦闘行為を止めて、お縄につきなさい。貴方方が、仕出かした事はマルクトへの侵略行為です」 「ふん! 我らは、マルクトに誘拐された導師を保護しに来ただけだ!」  アニスの言葉に、眉を顰めながらリグレットはそう言い放つ。 「導師を保護しに来たのならば、マルクトへの敵対行為をする必要はないはずですが?」 「誘拐したマルクトに対して何故温和的処置を持って導師の引渡しを願えるか?」 「それは違います。今回の導師イオン様の行動は、既に大詠師様の知るところです」  そんなはずがあるか! と、リグレットが大声張り上げ様とした所を、一人の青年がそれを遮る。  正確には、リグレットの頭を後ろから殴りつけて黙らせた。  青年の行動に、ダアト兵士はおろかマルクト兵士も驚きを隠せなかった。 「それは、本当か? 導師守護役アニス・タトリン」 「えぇ、真です。認可している事を署名したモノもありますが?」 「了解した……此方は、大詠師からの指示として来たのだが……」  眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情を浮かべる青年。 「その大詠師からという指示は、誰が?」 「……師匠。いや、ヴァン総長からだ」 「わかりました……ジェイド・カーティス名代」  不意に、話を振られてジェイドはメガネのズレを直す振りをしてなんでしょう? と、アニスに答えた。 「後の始末をお任せいたします。これ以上は私の出る幕ではない」 「えぇ、把握してます。幸い死傷者は出ませんでしたが、重傷者は多数でましたからね」  それに、タルタロスへの襲撃もありますし。マルクトとしては無視なんて出来ない。と、言うのがジェイドの心である。 「では、ダアト兵士の皆さんは武装を解除してください。解除しない場合は敵意ありとみなし……残念ながら死を覚悟してください」  ジェイドが、薄ら寒い笑顔でそう告げると次々にダアトの兵士達は武装を解除する。  なお、リグレットはアニスが、ラルゴはマルクト兵士達の手で、武装を解除させられている。 「おっと。俺はすまないが捕まる訳には行かない。確かめる事ができちまったからな」 「そんな事を許すと思っているのですか? 鮮血のアッシュ?」  マルクト兵士に囲まれた状況で、青年。鮮血のアッシュはそう言う。  その言葉に、ジェイドは眼鏡のズレを直しながらに告げる。  そんなジェイドの発言に、ニヤリと笑うアッシュ。 「武器が無くても戦えるんだぜ!!」  そう言うやいなや。アッシュは、直ぐ近くに居たマルクト兵士の腕を取ると、  セァッ! と、言う掛け声と共にマルクト兵士を投げ飛ばす。  マルクト兵士達の一瞬の動揺を逃すはずもなく、アッシュは、一気に艦橋の端まで走りそして、力強く空に向かって跳ぶ。  それと同時に、魔物の上位種である鳥。フレムスベルグがアッシュを掴んだ。 「じゃぁな! 刑罰は、ちゃんと後で受ける!!」  そう言い放ってアッシュは空へと消えたのだった。  あとがき。  アニス二十歳のハッタリを書き直したもの。  なんか、ジェイドがまともになってきて、アッシュがやんちゃではっちゃけて。なんかルパン三世みたいなノリになってきた。  あと、アニスの口調がわからなくなってきた。こまった。