マルクト帝国領、首都グランコクマ。

 謁見の間に、マルクトを統治するピオニー陛下とその重臣の前に大詠師モースが居た。

 軽い謝礼事項の挨拶の後、少々他愛のない世間話などをした後でモースは本題に入る。



「ダアトから導師イオンが、行方不明になりましてな……現在同じく行方不明の導師守護役は除き

 他の導師守護役は愚か詠師トリトハイムにも、何も言伝無しで行方がわからなくなった為。

 ダアトでは、誘拐されたのでは? と、見ております。

 それに差し当っては、マルクトに置いてもし導師イオンの行方が判明したら導師イオンの保護と

 ダアトへの早急な連絡をいただきたく存じます」



 その言葉に、ピオニーは口端を引きつらせる。どうやら思い当たる点があるらしく。

 まさか、誰にも断り無くな訳ないよな。と、その思い当たる点について内心冷や汗を流す。



「書置きとかなかったのか? 大詠師モース」

「書置き等一切ありませんでしたね。どうやら、導師イオンが導師守護役と外へ街の状況視察の際に行方不明になったらしく……

 一応、付近の住人達からも色々と聞き込みをしたのですが……あまり詳しい情報を得られなかったのですよ」



 詳しい情報を……については、モースの大嘘だ。実際は、青い服の男とかどう考えてもマルクト帝国軍しか当てはまらない

 特徴ばかりの情報を大量に得ている。しかし、コレは予定事項なのであえて得られなかったと告げた訳である。

 下手に問題を浮き彫りにしてダアトとマルクトが戦争をしては、今までの苦労が元も子もない為でもあったりする。



「現在、ダアトでは、導師イオンと導師守護役が誘拐されたと考え捜索に当ってます。

 ただ、導師守護役は誘拐という事が事実ならば、もう既に……何せ、重要なのは導師イオンの身だと思われますので……」

「そ、そうか。……わかった。マルクトでも一応行方不明だと言う形で捜索・保護、そしてダアトへの連絡を取ろう」

「はい。感謝いたします………」



 恭しく頭を垂れるモースを見て、さっさと帰って欲しいな。と心の奥底から思うピオニー。

 そんな事を考えているピオニーを余所に、頭を上げたモースは……



「さて、ピオニー陛下。今から話す事は、導師イオンよりも重い話になります」

「いきなりだな……」

「その点は、お許しください。この話は、この世界に非常に重要なモノ」

「……わかった。要点を纏めて率直に話せ」

「では、要点をまとめ率直に話させていただきます……。この大地を支えている柱、パッセージリングの耐久年数が、限界を迎えました。

 つまり、パッセージリングの自然崩壊と共に大地が、クリフォト……この大地の下にある瘴気の中に落ちます」



 本当に、要点だけ纏めた率直過ぎる話に、ピオニーは、ハァ? と、眉を顰めた。



「アグリュゼス。其処がまず落ちます……それを皮切りに次々と大地が落ちる」

「それもスコアか?」

「……スコア……とは、言いがたいのですが……この先必ず起こる事実を話したまでです。

 アグリュゼスには、パッセージリングが存在し、鉱物の産出の為地面を掘っていますね……

 つまりそれだけ、クリフォトに近く瘴気が溢れ安い場所なのです。

 それに、パッセージリングは、ユリア・ジュエの時代に作られた人工物。

 人工物に、半永久的と言うモノはあっても『永久』と言うモノはございません……

 つまり、花が芽吹き育ち咲き誇り枯れる。それと同じ現象がこの時代、この世界で起こるのです」



 ジッとピオニーを見ながらそう告げるモース。

 そんなモースを見て、最初は眉を顰めていたピオニーも、段々と眉間に皺を寄せ真剣な眼差しになる。



「解決策はあるのか?」

「……ございます。ただ、それには全ての国が協力しなければならないのです」

「言え」

「この大地を、クリフォトに降下させます。簡単に言ってしまえばパッセージリングを操作してゆっくりと降下させます」

「それは、可能なのか?」

「可能です……ピオニー陛下の懐刀である、ジェイド・カーティス……バルフォア博士と超振動を使用できるセブンスフォニマーが居れば」



 あと、一応ユリアの血族が必要ですが……と、小さく告げる。

 モースの口から出た名前に、目を見開くピオニー。

 暫くの無言の時間が過ぎた後、ピオニーがおもむろに口を開く。



「……わかった。このマルクトからは、崩壊阻止の為にジェイドを出す」

「感謝いたします」

「……此処からは、俺の独り言だ……その話が本当なのかは知らん。俺は予言が嫌いだからな。

 ただ、その話が本当なのならば、絶対に阻止しなきゃいけねぇ事だ……

 まぁ、嘘なら……どうしたもんかね」



 ぼやく様にそう言うピオニーに、頭を下げた後で、モースは謁見の間を後にした。

 その後で、一人の男が謁見の間に入ってくる。

 その男は、一度、ピオニーに頭を垂れた後で頭を上げる。



「ダアトにゃぁ、導師イオンの事ばれてるな……一応、形だけをとって導師イオンの捜索をしてくれ。

 それと、ジェイドから何か報告きてないか?」

「いえ、定時連絡以降、緊急の報告等は来ていないとの事です」

「わかった……にしても、あのモース……前来た時とは変わりすぎてないか?」



 偽者かと疑ったぞ? 俺? と、笑う。笑い声が謁見の間に響くのだった。






「ふう。まぁアレで色々と楽になるな……さて、マルクトも終わったし……

 今度は、ダアトで予言厳守する奴等の説得と根回しに……ひどけりゃ排除するしかないか……

 ヴァンはどうするか……そのまま進めると……何も知らないキムラスカの兵士達が、だし

 一応、ティアが不敬罪と第三継承者誘拐って形で処刑されるとして、一族も処刑になるから……

 ヴァン処刑か? いや、しかし……ティアはなぁ……必要なんだよなぁ……

 ぶっちゃけるとヴァンも……ヴァンは、味方になれば心強いんだが……説得するにしても骨が折れそうだし

 だぁ……下手に展開を知っていると困るな……パッセージリングの自然崩壊は、止められないから

 どうやっても降下させないといけないし…………えぇい! やめやめ!!!」



 一人ブツブツ言っていたモースだったが、頭をブンブンと振った後で、一番近くに居たダアトの護衛兵に声を掛ける。



「ダアトに帰還する。用意を急がなくていいからきっちりしておいてくれ」

「はっ!」



 鎧をガチャガチャと鳴らしながら去っていく護衛兵の背を見つつモースは、どうでも良い事を呟く。



「頭がすっきりする、キャパシティー・コアとか売ってないかねぇ?」











 おまけ

「シンク」

「ん。アクセルか」

「モースから、タルタロス拿捕って命令」

「了解」

「ただし、マルクト兵の殺害・殺傷・重傷を負わせる事は禁止」

「また、面倒くさいけど……まぁ下手したらダアトとマルクト間の戦争に発展するからしょうがないか」

「あと、理由無いで拿捕は、確実に駄目だから、理由も何か考えてってモースが」

「……え? 僕が考えるの?」

「うん」

「ラ、ラルゴかアッシュ……そ、それにリグレットとかの方が……」

「モースがぜひにシンク君にやってくれって」

「………マジ?」

「…………」

「…………」

「…………うそ。命令書はコレ。モースが色々書いてある」

「アクセル……」

「やだな。そんな怖い顔……仮面してるからわからないか」

「アカシック・トー」

「デモンズシール・強制装備」

「うわっ!?」

「じゃ、僕は命令書をラルゴあたりに渡してくるよ」

「………ダアトに帰ったら覚えてろ。アクセル」