ルーク・フォン・ファブレは、目の前の人物に対し酷く混乱していた。

 何故、この人物が今時期に出会うのか? と、心の中で疑問を抱く。



「いかがいたしましたかな? ルーク様」



 その人物にそう声をかけられ、慌ててなんでもないと告げるとその人物は、にっこりとした笑みを浮かべた。

 そして、鞄から一冊の本を取り出すと、ルークに差し出した。



「屋敷にばかり居ては、時間を持て余しましょう。体を動かす事が好きと聞き存じておりますが、

 本を読むと言う事も時間を消費するのに一役かいましょうぞ」



 あ、うん。ありがとう。と、ルークはその本を受け取る。

 再びその人物は、にっこりと笑みを浮かべると「ふとした時、本の知識が役立つかもしれませんからね」と告げる。

 確かに、そうだよな。と、ルークはその人物の言葉に、納得すると共に小さく頷いた。

 ちらりと本のタイトルを見れば其処には『冒険大辞典第一巻』と書かれている。



「まぁ、ルーク様には、不要な物になってしまうかもしれませぬが……何事も備えあれば憂い無しと申します」



 ジッと本のタイトルを見ているルークにそう声をかけた後で、では、御機嫌よう。ルーク様。
と、その人物はその場を後にするのだった。



「……てか、なんでモースが……俺にこんなの渡すんだよ?」



 第一巻って事は、続編あるのかよこの本……と、何とも無しにルークはそう思いつつ、己の部屋へと戻る。

 その場には、誰も居なくなりそよそよと風が流れるばかりだった。








「大詠師モース」



 ふと、名前を呼ばれ後ろを振り返る。声の主は、六神将の長であるヴァン・グランツ。



「何か用かね? ヴァン君?」



 モースとヴァンは、向かい合う様にしてその場に立つ。



「聞けば、ルークと接触したと聞きますが?」



 あのレプリカとは、ルーク・フォン・ファブレの事。どうやら、ヴァンはルークと接触した事を良く思っていないらしい。

 そりゃそうだ。ヴァンは、あのレプリカに己が頼れる信頼できる人物と刷り込まなければいけない訳であり、

 予定外の人物の接触は、それを阻む切っ掛けを作る事になるかもしれないからだ。



「それが、どうかしたかね?」

「……アレが、どう言った存在かお判りでしょう?」



 どう言った存在か? それは、お前の計画遂行の為に必要な人形と言う意味か? と、流石に口にはしなかった。



「予言通り死ぬ運命を背負った子だな。だから、それがどうかしたのかね?」



 飄々とした態度に、ヴァンは少々眉を顰める。



「私は、コレでも多忙でね。導師イオンと共にこなさなければいけない書類が山ほどあるのだよ。

 君も覚えがあるだろう? 書類整理の面倒くささには……アレを文字通り山ほどあるのだ……」



 だから、失礼するよ。と、さっさとその場を後した。



 ヴァンは、しばらくその場でモースの後姿を見送り己も己が仕事部屋へと足を運ぶ。

 仕事部屋に入り、己の椅子に腰掛け何やら難しい表情を浮かべる。



「あの豚め……一体何を考えている……あのルークは、レプリカであると言うのに……」



 ヴァンの計画は、モースには一切言ってもいない為、あのルークがレプリカというのを知らないはずである。

 私の思い違いか? 計画には、支障は無いと考えても大丈夫か? と、ヴァンは思考をめぐらせながら

 何も無い壁を睨みつけ暫く思考する。



「そう言えば……アッシュが、あの豚を追い掛け回していたな……何かあるのか?」



 思い立ったが吉日。早速アッシュに聞くとしよう……と、椅子から立ち上がろうとした瞬間。

 部屋の扉が開かれ、分厚い紙の束を持った女性が部屋に入ってくる。



「……リグレット。その紙の束は……なんだ?」

「はっ! アッシュが壊した教団本部内の備品についての苦情と賠償の書類です」

「………それ全部がか?」

「はい。全部です」

「…………私が、やらなければいけないのか?」

「勿論です」



 ドサッと目の前に置かれた紙の束を見てヴァンは、先程のモースの言葉を思い出すのだった。



『君も覚えがあるだろう? 書類整理の面倒くささには……』



「リグレット。てつだ」

「では、失礼します。部下達の訓練を見なければいけないので」



 ヴァンの言葉が、終わる前にリグレットはそそくさと部屋を後にする。

 そしてリグレットと入れ替わる様に、六神将のラルゴが部屋に入ってくる。

 やはり、その手には分厚い紙の束。



「……ラルゴ。その紙の束はなんだ?」

「街の民からの被害届けとその抗議文だ」

「……誰のだ?」

「無論……アッシュだ。正確にはアッシュとモースだが……」

「何故、アッシュがソレをしない?」

「モースがな。六神将のなのだから、長がするべきだ。と、主張するものでな……とりあえず、持ってきた」

「………あの豚め。あぁ、ラルゴ、てつだ」

「では、用事があるので失礼するぞ」



 部屋を出て行くラルゴ。

 残されたのは、机の上に存在する分厚い紙の束。

 ほんの少し涙が出そうになったヴァンだった。












「ねぇ。モース」


 カリカリカリと、ペンが紙に走る音が響く部屋の中で、不意にイオンが口を開きモースの名を呼ぶ。

 ペンを動かしたままモースは、イオンへ「なんだね?」と、尋ねた。



「僕の仕事終わったんだけど……なんで、モースの机の上……山になってるの?」

「これはね、予言を覆す為に必要な書類たちなんだ」

「本当に?」

「……………抗議文と備品破壊による苦情の書類ですよ。とりあえず、
仕事終わったらアリエッタかディストの所でも行きなさい。

 私は、まだまだ書類整理に時間がかかる」



 まぁ、そりゃかかるよね……本当に、文字通り山なんだから書類が……

 と、イオンはモースの巨体を隠すほどにつみあがった書類を見てやや呆れ顔でそう思う。



「じゃ、アリエッタお姉さんの所行ってくるね」

「あぁ、気をつけてな」



 教会内で、何を気をつけろと言うのだろうか? と、イオンは苦笑しつつ部屋を出る。

 部屋を出た所で、扉の横で待機していた少女が、イオンに声をかける。



「これから、アリエッタの所へ行きます。アニスついてきて下さい」

「はい。わかりました」



 イオンの横ポジションに着き、アニスは一度頷きイオンと共に歩き出す。

 そして、部屋に一人残るモース。



「………こういう時にCDプレイヤーが在れば良いのに……地上の星が聞きたい……」



 と、この世界において到底無理な望みを口にしながらも書類整理を進めてゆくのだが……

 バンッ! と、扉が思いっきり開けられる。一体なんだ? と、扉の方を見れば……

 其処にいたのは、アッシュ。



「俺と勝負しやがれ!」

「ドスコイ!!!」



 足に力を込め瞬時にアッシュに詰め寄り、頭突きを二度アッシュの頭に叩き込むと同時に、

 アッシュの襟元を掴み空中へと放り……



「ふん!!」



 落ちてくるアッシュに容赦ない張り手の連打を浴びせる。

 その張り手の連打で再び宙に浮くアッシュに追い討ちとばかりに、容赦ないとび蹴りを放つ。

 やたら鈍く大きい音が、響き渡りアッシュは、壁に打ち付けられそのまま地に伏せた。



「ふう……さて、書類整理をさいか……」



 問題です。狭い部屋の中で戦えばどうなるでしょうか?

 答えは、簡単。めちゃくちゃになる。

 つまり、山の様な書類たちは、部屋中に散らばり中には破れている書類もちらほら。

 モースは、ムンクの叫びの様なポーズをとり声にならない叫びを上げるのだった。


















 おまけ

 ディストとライガクイーン。



「…………」

『ほう。私の娘が世話になっていると聞いているぞ人間』

「…………」

『どうした? このオンキカンとヤラで、私の言葉がワカルのだろう? 娘に聞いたぞ?』

「………なるほど、それでアリエッタが、作って欲しいといっていたのですね」

『おぉ。これは人間の言葉もわかるのか。すごいな』

「…………」

『うむ。流石人間だ。我等には出来ぬなこのような事は』

「で、なんで私はここにいるのですかねぇ?」

『ん? 娘から私の番になるモノを連れてくるといわれていたが……?』

「………あ、私用事を思い出したので、至急ダアトに戻ります」

『そうか。また来い。人間よ』

「……えぇ、来れたら来ますよ」

『娘によろしく頼む』





 声のデータに、モースのデータを使うのではありませんでした。

 すぐに作り直しましょう。えぇ、直ぐにです。

 ネビリム先生のデータを使いましょう。そうしましょう。

 ソレにしても……アリエッタ。本気だったですね……

 勘弁してください……本当に…