何もない暗い空間。

 其処に中年の男性と若い男性が対峙していた。



『貴様は、一体何なのだ?』



 中年の男性が苛立ちを隠さぬままにそう告げる。



「さぁね? 私だって聞きたいさ。何故私がアンタになったのかってね」



 若い男性は口端に笑みを浮かべ、頭を掻きながらにそう告げる。



『予言を覆すつもりか? 予言が、どう言った存在かわかっているのか? 貴様は』

「唯の道標だ。予言通りに動くのは酷く簡単だろうよ。依存者もでるさそりゃ

 だけど……それじゃ意味ねぇだろ? アンタは、私の記憶を見れるんだから見ただろう?」

『……酷く醜い私が殺されるのを見た』

「事実だ。予言が狂いそれでも尚予言を完全遂行させようとしたアンタの末路だ」

『だが、予言は』

「アンタより長く生きてねぇ若造から言わせてもらうなら……馬鹿じゃねぇ? としかいえない」



 そこで、若い男性は一つ溜め息をつきやれやれと肩を竦める。



「もし、私が予言に明日死にます。と、読まれたら絶対嫌だね。あがいてあがいてあがくさ。

 人間ってそう言うもんだろう? 予言なんてさ、本当。いらねぇんだよ。在っても道標程度さ」

『………もう良い。どうせ、ワタシは終わってしまったのだろう。こう話すのは最初で最後だ』

「まぁ……そうかもな」

『最後に聞かせてくれ。貴様は、この世界を幸せに出来るか?』

「出来る出来ないじゃねぇ……幸せにしてみせるんだよ。何十年かかってもな」

『……そうか……では、な……』

「じゃぁな。モース」



 暗い空間は、本当の暗闇に飲み込まれて消えた。











 導師イオンが、行方不明。その導師護衛役であるアニス・タトリンと共にだ……

 しかし、その事実を知った大詠師モースは、六神将に導師イオンの捜索の令をだし

 己もキムラスカ=ランバルディア王国のバルチカへと導師イオンの情報を得る為に、足を運ぶのだった。

 そして、レムデーカン・レム・23の日。



「………そういや、モース来てるんだっけ? 王様んとこ」



 ボケッと自室から空を見上げていた、ルークがボソリと呟く様に告げる。

 何時ものパターンから、王様との謁見が終われば此方に来るだろうと、部屋の片隅に積み上げられた本を見やり思う。

 グルリと一度腕を回し、部屋を出ようとした所で馴染みの軽い頭痛を覚えるが、それは直ぐに消えた。

 部屋を出れば、目の前に広がる中庭。改めて伸びを一度した所で階段を降りる。

 そのまま屋敷内を歩き回り、すれ違うメイドや白光騎士団の兵士達に声をかけながらに歩く。

 そして、玄関へ出て飾り柱に飾られている剣を見上げた。

 宝刀ガルディオス。その剣は、良く手入れされ錆一つ無く輝いていた。

 コレを手入れするのは、父親たるクリムゾン。『前』よりも優しくも厳しい父親に尋ねてみた事がある。

 何故、その剣だけは、自身の手で手入れするのか? と……


『戒めと親友の為だ』



 その時、クリムゾンはそう告げるだけだった。

 数分ばかりその輝く刀身を眺めた後で、再び屋敷を散歩しようかと歩き始めるが、視界の端に

 ラムダスが移り、ラムダスに話しかける。

 ラムダスは、恭しく一礼した後で、現在ヴァン・グランツ謡将閣下がお見えだと告げてくる。

 はて、今日は稽古の日じゃなかったはず……あぁ、そうか……今日だったっけ……と、一人そう思う。

 部屋で呼ばれるまでお待ちください。の言葉に、軽く頷きわかったと告げた。

 それと、ぼっちゃんは、やめてくれ。と、苦笑交じりにラムダスに言うが、ラムダスは何時も通りの言葉を紡ぐだけ。

 頑固だなぁラムダスは……と、やはり苦笑を浮かべた。

 じゃぁ、部屋に戻るか。と、部屋へ行く為の廊下に繋がる扉に手をかけた所で、ラムダスに声をかけられる。



「庭師のペールらに話しかけるのをおやめください。かの者らとは身分が違いますゆえ」

「わかってる。でも、そんな些細な事気にしてちゃ意味ねぇだろ? 同じ人間なんだからよ」



 と、軽い返事と共にその場を後にするのだった。







 大詠師モースは、インゴベルトと二人きりで対峙していた。



「良く来たな。大詠師モース殿」

「急な謁見を許可していただき感謝いたします。インゴベルト陛下」

「よい。そなたが慌てるなぞ珍しすぎるのでな。何か火急の用かね?」

「はい。導師イオンが行方不明になりましてな」



 導師イオンが行方不明の言葉に、インゴベルトは眉を顰めると同時に溜め息をひとつ着く。



「もう、そろそろだとは、思っておったが……今日が、その日であったか」

「はい。始まりの日でございます。導師イオンの消息が確かになりましたらどうか、ダアトへご一報を願いたく」

「わかっておる。面倒臭い事になりそうじゃな」

「そうですな。まぁ……当事者になるルーク様にとっては、良い外への旅になるかと」

「キムラスカ=ランバルディアの王位継承者に何かあっては困るのじゃが?」

「切っ掛けを与える者には、軍人としての全てを叩き込んで在ります故……ルーク様は、無傷でお過ごし頂けるかと」



 どちらにしろ、面倒な事になるのは避けられないのぅ。と、インゴベルトはこの後の処理に対して頭を痛める。

 同じくモースも、これから起こる事に対しての出来事に、インゴベルトと同じ事を思い頭を痛めた。



「そういえば、インゴベルト陛下」

「なんじゃ?」

「ナタリア様とは、アレからいかがです?」

「何も変わらん。ナタリアも事実を受け入れておるしワシとしても、
今まで娘として育ててきたのだから娘で在るとは違いない」

「さようですか」

「うむ。そういえば、いつごろ出会えるかの? あの者とは」

「時期が来れば……自ずと出会えるでしょう」

「待ち遠しいのぅ……」



 暫く、インゴベルトとモースは、他愛のない会話を進めた後で、
モースは「では、ルーク様に本を渡さなければいけないので」

 と、インゴベルトに一礼した後で、謁見の間を後にする。



「さぁて……だれぞおらぬか!?」



 インゴベルトの言葉に、謁見の間に一人の軍人が入室してくる。
 その軍人に、インゴベルトは何事かを頼むと軍人はうやうやしく一礼し謁見の間を出て行くのであった。










 ファブレ公爵家に譜歌が、響き渡る。

 中庭にて、ヴァンと基礎訓練を行っていたルークは、とうとう来た! と、内心ワクワクしながらも

 建前上驚いた風にし狼狽してみせる。



「この声は……」



 ヴァンは、その場に膝を着き頭を抑える。



「ようやく見つけたわ……」



 その小さな声と共に、一人の女性が屋根から飛び降りてくると同時に、
未だ膝を着いているヴァン目掛けて走りかけてくる。



「ヴァンデルデスカ! 覚悟!」



 手にしたナイフをヴァンに容赦なく振り下ろすも、流石六神将が長。その攻撃を難なく回避し

 襲ってきた女性を見るなり



「やはりおまえか! ティア!」



 と、その女性の名前を告げると同時に、剣による突きをティアに繰り出すが、ティアはそれをバク宙にて回避し

 ルークのすぐ目の前まで下がる。

 それを、チャンスとばかりにルークは苦しげな声を出しつつ……



「いかん! やめろ!」



 ヴァンの静止の声は、結局は間に合わず、ルークが振るう木刀とティアのロッドがぶつかり合い……

 二人は、その場から擬似超振動により姿を消した。



「しまった……。セブンスフォニムが反応しあ」

「何、平然と空を見上げているのかね? ヴァン君」



 ヴァンのセリフは途中で遮られる。その遮った主は、本を片手に持った大詠師。

 片手に持った、本には『冒険大辞典最終巻』とかかれていたりするのは余談。



「大詠師モース!?」

「何を驚いているのかね? 君も聞いているだろう? 導師イオンが行方不明なのを」



 まぁ、それでキムラスカに協力を仰ぎに来たついでに、ルーク様に本を手渡しに来たのだが……

 さて、事情を話してもらえるかね? ヴァン君。と、人の悪い笑みを浮かべながらにモースがそう告げるのだった。














 おまけ。

 導師護衛役アニス・タトリンの護衛日記。


「アニス。すばらしいですね! このタルタロスは!」

「はい。流石、マルクト帝国が誇るのも間違い無いですね」

「? どうしました? そんな眉を顰めて」

「イオン様。良かったのですか? 大詠師様に無言で……」

「いいんですよ。モースだって色々と僕に秘密で何かやってたりするんですから」

「……わかりました。私は、イオン様を確実に守り抜きます」

「はい。頼りにしてますよアニス」

「はい」






 さらにおまけ。

 六神将ラルゴと六神将アッシュと、時々六神将シンク



「アッシュ」

「なんだ?」

「娘は、嫁にやらんぞ」

「約束は、守るもんだ! だから、俺は絶対結婚する!」

「だが、娘は絶対にやらん!!」

「………やるか?」

「………このラルゴ。簡単にはやらせん」

「ちょっと!? 二人とも! こんな所でいざこざ起こさないでよね!」

「………命拾いしたなラルゴ」

「………それは、お前だろう? アッシュ」

「だーかーらー!!! 二人とも!! そんな事してるんならリグレットのりょう」

「俺達は友(必ず殺すヤツ)だよな! ラルゴ!」

「あぁ! 敵とかいて友と呼ぶ仲だ! アッシュ!!」