大詠師モースは、天上を見上げため息を一つつく。

 物語の始まりを知らせる鐘は、鳴り響いた。

 だが、その物語に間接的にしか関与できない己に失望する。

 直接的に関与できる立場ならば、物語の主人公ルーク・フォン・ファブレの力になりたい。

 しかし、大詠師と言う立場を演じている己が、其れを良しとしない。

 せめて、ルークと共に戦った誰かに憑依していれば……と、考えた事は多々ある。



「至急、マルクトへ向かう」



 そう、近くに控えていた神託の盾の兵士につげバチカル港から船に乗りバチカルを出る。

 間接的に関与できるならば、其れを最大限に行う事で物語の手助けをしようではないか……

 物語は、何時も昔むかしで始まって。めでたしめでたしで終わるのならば。

 そのめでたしめでたしと、何の変哲も無い。不幸も不満も無い終わりを目指そうじゃぁないか。









「おきて……おきてください……ルーク……ルーク・フォン……」



 誰だ? いや、誰かってのはわかって……

 重い瞼をあけぼんやりする視界に、一つの人影が映る。



「あぁ……よかった」



 その人影は、本当によかったと、安堵の息を吐く。



「此処は……」



 ルークのその呟きに、その人影は少し困った表情を浮かべた後で「申し訳ございません」と呟く。



「……アンタは……誰だ?」



 本当は、知っている。でも、『ココ』では初対面なのに名前を告げてしまえば不審に思われる為、そう尋ねる。



「私は、元ローレライ教団の神託の盾騎士団、大詠師モース旗下第一情報部隊所属のティア・グランツと申します」

「元……?」

「はい。元です。それよりも、お体の方は大丈夫ですか? ルーク・フォン・ファブレ様」



 うわ、ティアが……ティアが、俺に対して敬語使ってるよ……と、ルークは、心の中で悶える。

 無言でいる、ルークにティアは不安げな表情を浮かべ……暫く後でその場に静かに土下座する。



「この度は、大変申し訳ございませんでした! キムラスカ・ランバルディアの第三王位継承者たる

 ルーク・フォン・ファブレ様を、私の私怨が原因で巻き込んでしまい!」

「うぇ?! ちょ!? ティア! やめてくれ!」

「しかし! 私が、ルーク・フォン・ファブレ様をまき」

「だーかーらー! やめろっての!」



 それと、土下座もやめろ! と、ルークが語気を強めてそう言うと静々と、ティアは土下座をやめる。

 それと同時に、ルークはモースから貰い読んだ『トオヤマノキンサン』というタイトルの本の内容を思い出す。



「今この場にいる、俺は唯の『ルーク』だ。第三王位継承者のルーク・フォン・ファブレじゃない。いいな?」



 だから、敬語やめれ! と、ティアにビシッと指を差してそう告げるとティアは、目をまんまるくさせた後で

 ルークに、一度お辞儀をした。



「とりあえず、ココは何処か? ってのかが、わかるのが一番だろ?」

「はい…………ルーク様」

「様もダメ。今は唯のルークなんだからよ。俺」

「わかりました。ルーク」

「敬語も禁止」

「わかり……わかったわ。ルーク」



 うんうん。その口調が一番しっくりくるなティアは、と心の中で満足げにうなずくルーク。



「ルーク。私は、貴方を命を差し出してもバチカルにお連れいたします」

「命まで差し出さなくて良いって……それと、敬語」



 その指摘に、あ、すみません。と、ちょっと小さくなって謝るティア。

 そんなティアの姿を見て、ルークはボソリと「かわいい……」と、呟く。

 どうやら、その呟きはティアには聞こえなかった様だ。



「とりあえず、此処から出よう」

「はい。どうやら、魔物が居る様です……だわ。ルークさ……ルークは、私の後ろをついて来てくだ……ちょうだい」



 途中途中、言葉に詰まりつつもティアがそう告げると、ルークは少々驚いた表情を浮かべた。

 『前』ならば、この場所で初めて魔物と戦ったのだが……



「別に俺戦えるけど?」

「いけません! 今は、唯のルークであったとしても一般人です!

 それに、私は元とは言え軍に所属していました! 軍人とは、一般市民を守る為にあるのです!

 だから、私が戦います! だから、絶対に魔物と戦ってはいけません! 魔物と出会ったら直ぐに隠れてください!!」



 絶対駄目です! と、ルークの肩を掴みティアは口早にそう告げる。

 それに、驚いた表情を浮かべつつも、わ、わかった。とうなづく。



「あ、敬語」

「あら……」



 申し訳ございません。と、己の口に手を当てて顔を赤らめるティア。

 やべ、こんなティアも新鮮だ。と、思いつつそう言えば……服が、神託の盾の物ではない事に気付き。

 確か……クールビューティーの服だよなぁ……と、思いながら歩き始めたティアの後ろを歩くのだった。












 おまけ

 モースの華麗な船旅



「大詠師モース様。何をしているのですか?」

「うん? みてわからんかね? 釣りにきまってるだろう!?」

「い、いや、何故……」

「……現実逃避をしたいのだよ……君も見ただろう……あの書類の多さ」

「は、はぁ」

「ほとんどが……苦情整理だ……わかるかね? わかってくれんかね?」

「わ、わかりました。だ、だから顔を近づけないでください」

「うむ……む?! 早速来たか!?」

「………」

「何を呆然としている! 其処の網をとっ! ぬうう!! 力強いひき! 大物に違いない!」

「………」

「ウダラッシャァ!!」

「大きいですね」

「あぁ、大物だな」

「魚に手が生えてますね」

「そうだな。足も生えてるな」

「人魚というヤツですかね?」

「いや、違うだろ。常識的に」

「ですよね」

「……キャッチアンドリリース。よし、船内に帰ろう。私は何も見ていない!」




 更におまけ

 アリエッタとディスト



「………」

「なんですか? アリエッタ」

「………おかーさん。と、結婚……する?」

「………物理的に無理です。まだ、諦めてないのですか?」

「……シンク達の、おとーさん。なら、おかーさん。結婚する」

「ですから……そりゃ、ライガクイーンは嫌いではありませんがね?」

「結婚?」

「ですから! なんで其処まで飛躍するですか!?」

「? おかーさん。嫌いじゃない。なら、好き。だから、番に、なる」

「………助けて。ネビリム先生」