マルクト帝国軍第三師団長であるジェイド・カーティスは、やれやれと心の中で溜め息を吐く。

 偶然とは言え、漆黒の翼に遭遇した事は良かった。と、思いつつ行き成りの事で導師イオンが驚いていなければよろしいですが……

 と、顎に手を添えながらにそう思いつつ、乗員にエンケーブへタルタロスを移動させる事を指示する。

 このタルタロスの目的は、『キムラスカ・ランバルディアへの和平』に向かうモノだが……

 其れを誤魔化す為にわざわざ漆黒の翼を追いかけた訳だ。

 つまり、『盗賊を捕縛する為に陸艦タルタロスが動いた』という情報が、多くの人に知られれば

 其れが、本当の目的を隠蔽するのに役立つ。

 まさか、『盗賊を追う陸艦』に導師イオンが乗り、和平の為に動いているとは誰も思わないだろう。

 まぁ、内部から情報が漏洩してしまえばそれで終わりなのだが……

 エンケーブ、見えました! と、兵士の報告にジェイドは、眼鏡のずれを直した後で、

 やれやれ。さっさと和平交渉を済ませたいモノですね……と、ジェイドは一人そう呟くのだった。








「おっひゃん。おっひゃん。りんごのだいひんいふら?」



 と、リンゴに齧りつきながら露天商にそう告げるのはルーク。

 行き成りリンゴを手に取るなりかじりついたルークに、少々驚きの表情を浮かべるティアと

 眉を顰め怪訝な表情を浮かべる露天商。



「あ、あぁ。一つ三十ガルドだ」

「ん」



 チャリンッと小気味良い金属音と共に露天商に三十ガルド丁度手渡す。

 そして、そのままリンゴを食べ進めるルーク。リンゴはあっという間に芯だけになりやっとルークの口から離れた。

 其れを見て露天商が、やはり怪訝な表情を浮かべて口を開く。



「坊主。食べる前にガルド払うのが普通じゃぁねぇか?」

「ん? あ、ごめん。つい。美味そうで」



 それに腹減ってたからなぁ。と、頬をポリポリと掻きながらにそう答えると、

 露天商は、まぁちゃんと払ってもらったからいいけどよ。と苦笑した。

 前と違う行動。今思い返してみればアレは恥ずかしい。と、ルークは思い出しながらに少々赤面。

 しかし、コレではジェイドやイオンと出会う切っ掛けをどう作れば良いのか?

 そんな事を悩むが、まぁなる様になるだろ。きっと。多分。と、大部分曖昧すぎる思考を余所に

 受け取ったリンゴをジッと見ているティアを見やる。



「ん? 食べないのか?」

「え? えぇ……後で頂くわ」



 ルークの質問にハッとした様に顔を挙げ、少々苦笑をもらしながらティアはそのリンゴを食料袋にしまう。

 女性に今この場で、大口開けて食べろと言うのは少々デリカシーの無い事だとルークが気づくのは大分後。



「さてと、宿屋行かないとなぁ」

「村の入り口に宿屋の看板があったわ」

「んじゃ、行こうぜ。エンケーブから戻るルートきめねぇと」

「そうね。此処まで来るのに使った橋は、落とされたもの……と、なると……」

「ま、今此処で考えるより宿屋で、ゆっくり考えた方がいいんじゃないか?」



 笑顔を浮かべながらにそう言うと、その笑顔を見たティアも口元に笑みを浮かべそうね。と呟くように言うのだった。











   私は、元ローレライ教団の神託の盾騎士団、大詠師モース旗下第一情報部隊所属のティア・グランツです。

 何故、元かと言うなればそれは単に私怨を行動に移す為に情報部隊を脱退した為。

 もし、そのまま実行していればローレライ教団に多大な迷惑をかける事となり天津果てには、

 ダアトとキムラスカ=ランバルディアでの戦争勃発に繋がりかねない事。

 そう、私が行った事とは……キムラスカ=ランバルディア王国がファブレ公爵家に、尋ねてきた兄を殺す事。

 つまり、ファブレ公爵家への不法侵入かつ護衛騎士達への譜術の使用。

 これだけで、どれだけの罪が私の身に降りかかっているか嫌でもわかる。

 止めに、巻き込んでしまったキムラスカ=ランバルディア王国第三王位継承者。

 ルーク・フォン・ファブレ様の誘拐も追加される事間違いない。親族諸共に死刑確実。

 まぁ救いなのが、親族が兄だけと言う点か? あ、結局は成功なのかな?

 何はともあれ、現在の私は、ルーク・フォン・ファブレ様を無傷で無事バチカルまで届けなければいけない。

 それにしても……ルーク様の発言には、色々と驚かされる。

 ルーク・フォン・ファブレではなく……ただの『ルーク』としてとか……

 箱入り息子という情報以外まったくしらない彼。でも、何処か彼の行動は……

 でも、ちょっとデリカシーが無いかしら? まぁ箱入りだったからそこら辺はしょうがないのかもしれないわね。




 








 マルクト領首都グランコクマへ向かう大詠師モースを乗せた船は、順調に海路を進んでゆく。

 その船の甲板に、モースと仮面を着けた少年が居た。

 仮面を着けた少年の正体は、レプリカイオンのアクセル。

 導師としての役目を担うイオンや、六神将の一人である疾風のシンクとは違いアクセルは、

 大詠師モースの近衛兵として、扱われている。フローリアンは、モースからお使いを頼まれ現在はシェリダンに居る。



  「アクセル君。アリエッタからお友達を一匹借りてある。この手紙をアッシュ達に届けてくれ」



 モースは、そう言いながら懐から一通の封筒を取り出す。

 それをアクセルは無言で受け取った後で、己の懐に封筒を居れた。



「お友達には、事前にアッシュ達が何処に居るのかアリエッタが教えてある」

「お姉さんは?」

「アリエッタは、現在ライガと共に現地に向かってるから心配はない」

「わかった」

「命令等の連絡事項は、今渡した手紙に全部書いてある頼んだよ。アクセル君」

「了解」



 短くそう答えるとアクセルは、その場から立ち去る。遠くから羽ばたきの音が聞こえたが

 モースは、その音が完全に遠のいた後で船内へと戻るのだった。













 おまけ

 ガイ・セシルの愉快な旅。



「ルークを探せっていってもなぁ……マルクト領と情報ないんじゃどうすれっていうんだよ」

「そもそも、怨敵と言って過言でないヤツの言う事を聞くのもなぁ……」

「……ガルディオスがなんか、重いなぁ……」

「………はぁ」

「溜め息着いて、どうしたです、か?」

「ん? いやぁ……復讐したい相手にソレがばれてて尚且つ相手が、ソレもかまわんとか……」

「復讐、だめ。ですよ」

「でもな。俺今までソレを糧に生きてきたような………君だれだ?」

「……アリエッタ」

「……アリエッタ? え、えーと……こんな場所で君一人かい?」

「ん。アリエッタ。一人じゃない、です」

「一人じゃない?」

「お友達とおとーとが一杯」

「お友達とおとー………るぉ?! ライガ!?」

「自慢の、おとーと、です」

「………」

「イオン。さま。いってました。旅は道連れ。世に情けをかけるな」

「すっごい間違ってる」

「なので、アリエッタ。は、貴方を、連れて行き、ます」

「い、いや遠慮するよ。ほ、ほら俺はマルクト行かないと、ね?」

「大丈夫。アリエッタ。も。マルクト行く。です」

「へ? い、いやいやいや!」

「行くです」

「ちょ!? やめ!? 襟首噛まれた!?」

「イオン様。いってました。急がばライガを使え」

「絶対にちがっ!!! ギャー!!!」






 おまけ

 ルークの独り言。



「ん? なんか今ガイの悲鳴が聞こえた様な」

「いや、気のせいか……まだ早いしなぁ……」

「気のせいだな気のせい……」

「ティアは、ぐっすり寝てるな。軍人とか言ってたけどやっぱ女の子だな。疲れてたんだ」

「あ、そういえば……イオン。チーグルの森向かうはずだから……やっぱ早朝か?」

「んー……一時間ばかり仮眠とって見張るか」

「まぁ……最終手段で、パナシーアボトルでも飲めば眠気覚めるよな……アレ、すげぇ苦ぇし」

「チーグルの森かぁ……ブタザル……ミュウは、やっぱり……ライガクイーンの森を?」

「………まぁ、いいや。一時間ばかりお休みさんっと」

「あ、日記付け忘れた。明日、書いておくかな」