国はずれの場所。それは、どの国に存在しているか不鮮明な場所。
その場所のひとつに、元六神将が総長ヴァン・グランツが居た。
彼は、ダアトから追放処分を受け、キムラスカ=ランバルディアからは入国禁止処分を受けている。
これは、彼が外郭大地降下作戦に罪の軽減として参加した為にこの二つの処罰で済んだ訳だ。
そんな彼は、国はずれの森の中で人知れず一人で過ごしていた。

一人。と、言っても元六神将が総長である彼にとって、あまり苦痛を得るモノでは無く。
寧ろ、今の生活を気に入ってすら居る。スコアに支配されない生活は、彼の心を潤していた。
ただ、彼は処罰軽減の為にセフィロトの制御盤開放に従事しその結果として瘴気を体内に取り込んでしまった為
著しく体力や譜力は落ちているものの下手な事をしなければ十二分に森の中でも生活できた。
今も、サイノックスを倒しその身を己が棲家へと引きずって歩いてる途中でもある。

今日は、猪なべか。などと、もう街に行って久しくない為に伸びきった髭とも髪とも見分け付かぬ毛を撫でながらに思う。
そして、なんとも無しに改めて思う。こんな生活も良い。寧ろ、この生活をしていればよかった。
そんな思いが彼の胸にあった。
ふと、棲家である掘立小屋に見慣れぬ人影。
こんな森に来る人間は、滅多に居ない。たまに居るとしても迷いの旅人や山菜取りで迷ってしまった人ぐらい。
はて……と、彼は髭とも髪とも分からない毛を撫でながらそのまま棲家へ歩み寄る。

「リグレット……か?」
「お久しぶりです。総長」

見慣れぬ人影の正体は、今は六神将を辞めてしまった魔弾のリグレット。
本名ジゼル・オスローその人だった。
リグレットは、ヴァンに向かって一度頭を下げた。

「もう、私は総長でもなんでもない。ただの森人<モリュウド>だ……まぁ良い。なにか用か?」

ヴァンは、サイノックスを棲家の片隅に乱雑に置いた後で、改めてリグレットの顔を見やる。

「………私もここに居ていいですか?」

突飛な提案に、ヴァンは少々驚いた様な表情を浮かべる。

「………此処は、不便だぞ? 文明と言うモノは殆ど無いに近い」
「それでも、ここに居ていいですか?」
「………自給自足だ。華奢なお前に耐えられるか?」
「女は、華奢でも強いものです」

リグレットの言葉に、ヴァンはため息を一つ付いた。
何が面白くてこの追放の身である自分と居たいというのか……皆目検討も付かない。

「……今日の飯は、猪鍋になるが……食べるか?」
「是非」

こうして、国はずれの誰も立ち入らない様な森の中。
ヴァンとリグレットの二人の生活は、始まったのだった。

「………一応、言って置くが………風呂とか無いからな?」
「無ければ作ればいいじゃないですか」

理由は分からないが、最後の足掻きの様に呟いた言葉は、あっさりと切り返され無意味とかした。








鈍感な男と少し素直になった女。