これは、まだシンクがルークと一緒に旅をする前のお話です。




ダアトが誇る六神将。
今では、三人しか居らず、空席の三席を誰が埋めるのか決まっていなかった。
残っている三人は、言わずもがな妖獣のアリエッタ。黒獅子のラルゴ。薔薇のディストの三人である。
一応、空席の一つを埋める最有力候補が、ティア・グランツなのだが……それは置いておく。

その三人の一人。妖獣のアリエッタは、己の親友で導師守護役であるアニス・タトリンと台所に居た。
親の食事すら面倒を見ていたアニスが、台所に居るのはわかるのだが……
料理をすると言う事すらした事の無いアリエッタが、台所に居るのには、結構珍しい事であった。

「とりあえずぅ〜……出来たね」
「うん」

一仕事終えた。良い仕事した。と、言わんばかりに額の汗を拭うアニスに、小さく相槌を打つアリエッタ。
二人が、作っていたものはごく一般的にデザートと呼称されるものだ。
二人の目の前の台には、出来立てのアップルパイ。
丁度よくこんがりとした狐色に焼け、仄かに焼けた林檎の甘い匂いが漂う。
後は、コレをイオン様とフローリアン、アクセルの所に持って行って紅茶でも淹れて食べよう。と、アニスが言う。

そう、何故三人が、お菓子を作っていたのかと言えば、イオンとフローリアンが何か、甘いモノが食べたい。と言ったからだ。
でも、二人は職務に忙しく外に出て甘味処に行っている暇は無い。
なので、主婦(?)であるアニスが、腕を振るった訳だ。
アリエッタは、二人の姉としてアニスのお手伝いをしていた訳である。

因みに、アクセルはシンクと同じく世界中を旅して本やその地方で起こった出来事等を採取してはダアトに持ち帰ってくる。
本人曰く、僕は観察者で記載者。だそうだ。基本、一月に一度は戻ってきて一週間ぐらいダアトを見て周りまた居なくなるの繰り返しだ。
と、言う訳でアクセルは、丁度よくダアトに帰国しておりこのお茶会に御呼ばれした訳である。
尚、アクセルは世界中を旅し物事を本にしているだけあって、料理の知識もイオン四兄弟の中でも一番。
だが、実際料理を作るとなると……シンクが一番だったりする。
閑話休題。

アップルパイを運ぶ時にアリエッタは、ふと思った。
愛する弟であるシンクにも食べさせたいな。と、
しかし、シンクはアクセルと同じく世界を旅して回っている。
そして、アクセルと違ってシンクが戻ってくるのは半年に一度と言う程度。
アクセル見たく、タイミング良く帰ってくると言う出来事は、殆ど無いに等しい。

でも、シンクに食べさせたい。と、思ったら吉日。
アリエッタは、台所を出て中庭へと足を運ぶ。
無論、その手には、アップルパイが数個入ったバケットを持って。
そんなアリエッタを見送るアニスは、小さくため息をついた。
とりあえず、残っている分をイオン達に持っていかなければと、アリエッタが持っていったバケットとは別のバケットを取り出し
残っているアップルパイを入れて行く。
そして、ふと思う。アリエッタ。今日中に帰ってこれるのかな?

中庭に出たアリエッタは、空のお友達を数匹呼ぶ。
アリエッタの声に答える様に、数匹のフレスベルグがアリエッタの前に降り立った。

「シンクを見つけて。教えて欲しいです」

たったそれだけの言葉に、フレスベルグ達は、頷く様に一度頭を垂れて空に飛び立った。
フレスベルグが、戻ってくるまでの間アリエッタは、己の姉弟であるライガと共にその場で待っていた。
美味しそうな匂いを出すバケットに興味を示し、鼻をスピスピ鳴らすライガからアップルパイを守っていたのはご愛嬌。
そして、小一時間もしない内に最初に読んだフレスベルグとは違うフレスベルグが、一匹アリエッタの前に降り立つ。
フレスベルグは一鳴きすると、アリエッタは一度頷いた後で、フレスベルグの背に乗った。
フレスベルグは、もう一度鳴くと力強く翼を羽ばたかせ空へと飛ぶ。
目指すは、シンクの下である。

グランコクマで、のんびりとしていたシンクは、ふと空を見上げた。
相変わらずの青空に、一つの黒点。それを見つけたシンクは、うん? と、目を細める。
そして気づく。その黒点が段々と己に近づいてくる事に
え? ちょ? なに? と、慌てている内にその黒点の正体がはっきりと見え。
シンクが、構える前に強烈な風と共に目の前に降り立つ。
唐突の出来事に、シンクは風に煽られ転んでしまう。

「フレスベルグ? って事は……」

降り立ったのは、フレスベルグ。
そして、フレスベルグの背中から、一つの影が飛び出しシンクに抱きついた。

「ちょ!? アリエッタ!?」
「む! おねーさんです!」

驚いたシンクの言葉に、そう返すアリエッタ。

とりあえず、落ち着きを何とか取り戻し、シンクはアリエッタを見る。
何時もの服装に、何故かバケットを持っている。

「ダアトから、此処まで良く来たね……で? 何のようだったの?」
「シンクにも、アップルパイ。食べるです」

アップルパイ? と、首を傾げるシンクに、アリエッタはバケットをん。と、シンクに押し付ける。
確かにバケットの中には、数個のアップルパイが存在した。
どういう経緯かわからないけど、まぁいいか。と、シンクは一人納得する。

「……何処かの喫茶店にでも入ろう。紅茶でも飲みながら食べるよ」
「アリエッタもです!」

はいはい。そんなのわかってますよ。と、シンクはため息をついたのだった。


「焼きたて……冷めちゃったです」
「まぁ、そりゃ……フレスベルグで来たから余計だよね」
「むぅ……」
「ま、僕猫舌だし。コレぐらいが丁度いい。紅茶もあるしね」
「……むぅ? シンクの舌は猫さんですか?」

違うから。と、シンクは苦笑をもらすのだった。
結局、お茶会が終わってしまえば日が、もう直ぐ沈む寸前。
シンクの提案で、アリエッタはこのままシンクと一緒にグランコクマの宿で一夜を明かすのだった。


存在を忘れ去られたフレスベルグが、寂しそうに夜空に向って一つ鳴いた。








キリ番46000リクエスト。

こんなんで、良かったのか非常に不安です。
この場で、キリ番を踏んだ行祐師に、感謝を