漆黒の美男と名高いそろそろ三十路に突入する男は、部下から入った報告に溜息をついた。

己の年が離れた愛らしい弟が、連れ去られたと言うのだ。
しかも、連れ去った相手は、ダアトの兵士。
喧嘩うってんのか? と、言葉汚くおもってもしょうがないだろう。

「……各都市。街。村に滞在している黒の騎士団に鳩を飛ばせ……」

ハッ! と、男の言葉に、敬礼を返し慌てた様子で出て行く部下。

「…………ダアトめ。とうとう行動を起こしたな………」

思い起こされるのは、ナタリアの入れ替え事件や『ルーク』の誘拐。

「……ルイン。無事戻って来い……」

男……ルルーシュは、限りなく澄んだ蒼い空を見上げてそう呟いた。




ルルーシュは、インゴベルトの私室に足を運んだ。
私室には、既に己の父親であるクリムゾンが、厳しい表情を浮かべて座っていた。
そんな父親の様子を見つつも、己も用意されていた椅子に腰をかける。

「インゴベルト陛下。そろそろダアトとの戦争の準備を始めた方がよさそうですね」

開口一番にそう伝えると、インゴベルトは渋い表情を浮かべた。
信じたくは無かったが……やっぱり、事実だったのか。と、落胆した様子を見せる。
その落胆の原因は、ひとえにダアトのキムラスカ=ランバルディアに対しての敵対行為にである。

「予言では、マルクト帝国と戦争し我等が、栄えるでしたか……」

ルルーシュは、顎に手を添えて眉を顰める。

「陛下。私も独自の手段で色々と調べたのですが……」

ここで、初めてクリムゾンが口を開く。
そして、その口から出た報告は、今まで予言を信じていた事に対しての嫌悪に変わる。

「腐れば腐る。予言すらも私腹肥やす土壌でしょう」

つまり、大体の予言が、狂言であり。真実の予言なぞ殆ど守られていない。
本当の予言を知るのは、予言を読む事を許された導師だけだろう。
しかし、それを伝える役目をしているのは詠師らだ。
つまり、その伝える「予言」をいじくれる立場に居るのが詠師だ。

だから、その予言を弄くり。己の私腹を肥やす事につなげる事を考えるのは居るだろう。
現に、コレまでの歴史で、真の予言を弄り「己の予言」として告げ、それが発覚し処刑された詠師は多く居る。
しかし、それでも、その偽りがなくならないのは、偏に詠師らが、そう言う組織と化して来てしまっているからだ。

無論、すべてをきっちりと告げる詠師も居ようが……世の中そんなヤツラばかりでは無いという事だ。

それに、ルルーシュが調べた結果なのだが、予言推進派の殆どが、そう言う詠師であり元締めは、大詠師モースであった。
それに対抗するべく作られた、予言を標とする導師派は、あまりに小さく推進派を止める事は出来ていない。


「マルクト帝国を治めるピオニーは、予言を大層嫌っているので、良ければマルクトから支援して貰えるかも知れません」

マルクト帝国治めるピオニーの予言被害は、マルクト帝国は愚かキムラスカにも耳に入る。
幼馴染で大好きだった女性と結婚しようとおもったら、ダアトからそれは予言に読まれていません。不幸になります。
と、言われ。さらには、マルクト帝国内の予言信仰の徒に、結婚の不可を言われたと言う話だ。

好きな人と、一緒になれない。相思相愛だったかもしれないのにソレを止められた。
今の世界は、予言に操られた不自由すぎる世界なのだ。

「寧ろ、それを初めにマルクトと手を取り合うのも良いかと」

ルルーシュの言葉に、クリムゾンが目を細めて言う。
もし、マルクトと手を取り合えば、限りなくメリットが大きく。デメリットが少ない。
それに、予言に読まれていたマルクトと戦争をする事は非常に、非生産的だ。

戦争は、民を土地を疲れさせ。戦争が終わったからすぐに元の生活に戻れる訳ではない。
戦争とは、負しか生み出さぬ行為なのだから。

「……わかった。ルルーシュよ。私が一筆書く。それをお前の信頼置ける部下に私マルクトへ運べ」
「御意」

かくして、物語は、予言とは違う道筋をたどりそうです。
その、すべての原因は、ルルーシュ・フォン・ファブレという存在。