セレニアの花が咲き誇るタタル峡谷。  そのセレニアの花が一望できる場所に、青年と女性が居た。  正確には、はじめてみたセレニアの花を見て鈴蘭に似てるなぁと言う感想を抱く青年と  何があったのか良く分からないが倒れ付して気絶している変な女性である。 「母上も唐突だよなぁ……元の世界で遊んでらっしゃいって……」  そう言いながら顎に手を添えて眉を顰めるのは、幻想郷が妖怪の賢者である八雲 紫に神隠しされ。  瑠紅と言う名を名づけられたルーク・フォン・ファブレのレプリカである。  現在は、八雲 紫に境界を弄られレプリカに限りなく近く人間に限りなく近い人となっている。 「一応、記憶共有は、母上の能力でさせてもらったものの……正直なんだかなぁ……」  と、とりあえず、まだ気絶している女性を見て……あぁ、面倒くさいなぁ……と、  入れ替わったルーク・フォン・ファブレの最後の記憶と照らし合わせるに誘拐犯である女性の扱いに決めかねていた。  さっさと、放置してこの場所から立ち去るのもいいのだが……  正直、すごく放置したい。関わりたくないのが本音である。  幻想郷の女性・少女とは別の意味で、嫌な予感しかしない。  数十秒の脳内審議の結果。 「よし。ここから出よう」  気絶したままの女性を放置すると言う結論が、脳内で満場一可決した瞬間だった。  セレニアの花が咲き誇っていた場所から、降りる際にプチプリやサイノックスという魔物に襲われたが……  サイノックスは、ルークが所持していた木刀で撲殺し、プチプリにいたってはどうやってうごいてんだ?  と、手でいじくったりして観察していたが、幻想郷の毛玉と同じ感じだなぁ。と、考えることを直ぐにやめた。 「うお?! 漆黒の翼かっ?!」  あぁ、やっと渓谷出口……と、瑠紅が思ったらいきなりそう声を上げられた。  なんだいきなり。と、声の方を見たら、一人のおっさんが木製で出来たバケツを手にして此方を見ている。 「なんだよ。その名称。俺の何処が黒いってんだよ?」 「お、おぉ……すまん」  どうかんがえても紅いだろう。俺は。と、瑠紅は、ため息。  ソレを見て、おっさんは、少しばかり動揺しながら謝罪する。 「で? おっさんなんで此処に?」 「ん? あぁ、馬車を休ませる為になぁ……水飲ませて飯を馬にやろうとおもってな」 「ふーん。業者?」 「あぁ、此処からマルクトの首都。グランコクマまで各所を巡って走るんだ」  ふむ、ルークはキムラスカの王族だから、グランコクマに言ってもしょうがないんだけどもなぁ……と、顎に手を添えて考える。  しかし、この場所からキムラスカに向うとして記憶共有はしているものの、  ルークが地形を殆ど知ってはいない為、迷子になる事必須である。  王族ならば、常識的に考えて保護してもらうのが一番だよな。いや、でも幻想郷以外を旅すると言うのも楽しそうだし……  母上は、自由になさい。出来るだけ面白おかしく。と、余計な注文をつけたが自由にしていいと言った。  お土産よろしく。と、霊夢の姉さんは言ってたが……何をお土産にすれというのか…… 「おっさん。このままだと何処に行くんだ?」 「ん? エンゲーブさ。あそこで一旦馬の餌を補給と同時に、次の街への行商する為にいくつか買い込むつもりだ」 「ならさ、エンゲーブまで連れてってくれない? 無論、客として」 「エンゲーブまでなら、二千ガルドだ」  二千ガルド。と、言うかこちらの金無いぞ? と、瑠紅は顎に手を添える。  何か無いか? と、服のポケットをまさぐっていると、コツンとなにか硬い手ごたえ。  それを取り出してみると小粒だが、紅い石が一つ入っていた。 「これかわりにならねぇか?」  と、おっさんに手渡して見せるとおっさんは、目を見開いた。 「坊主。これクリムゾンルビーじゃねぇか。一万ガルド以上の代物だぞ?」 「あ、そうなの?」  あっけらかんとそう返す瑠紅。それに何処か呆れた様子のおっさん。 「グランコクマまで乗ってくか? 正直、釣銭が無い」 「いいよ、エンゲーブまでで。また、おっさんの馬車使う時あるかもしれないから。俺の顔覚えておいてよ」 「わかった。まぁ、忘れはしないなぁ。坊主は特徴ありすぎらぁ」 「まーな。よく初対面のヤツにはそういわれる」  よし。馬車は直ぐそこに置いてあるから乗っててくれ。  馬達に水と餌やったら出発だ。と、おっさんはバケツを片手に奥へ向った。  瑠紅は、おっさんに言われた通りに馬車に乗り込みこじんまりとした窓から外を見る。 「………そういえば、フランドールにもお土産を持って帰らないといけないなぁ………」  と、気の許せる親友の一人である吸血鬼姉妹の妹の顔を思い出してそう呟いた。  寧ろ、忘れてたらキュッとしてドカーンされそうで困る。全力で対応するけども。と、瑠紅はそう思うのだった。